大手塾の個別指導部門で教室長をしていた頃、私が意識していた戦略についてお話しします。
大手塾と個人塾では「勝つためのルート」が全く異なります。
個人塾の勝ちパターンはシンプルです。
「通った生徒の成績が例外なく上がり、志望校に合格する」
これに尽きます。
塾長のキャラクターが強烈だろうが没個性だろうが関係ありません。「あそこに行けば成績が上がる」という事実が市場に認知されれば、人は集まります。
一方で、大手塾。
ここは構造上、「全員の成績を絶対に上げる」という離れ業が非常に難しい。
なぜなら、現場の教室長には売上管理などの「教育とは無関係な雑務」が山のように降り注ぐからです。指導のみに全振りができない。
では、そんな大手塾の中で、どうやって教室を流行らせるか?
答えは、「教室長自身を売り込むこと」です。
大手塾の看板(ブランド)で生徒は集まりますが、それだけでは「ファン」にはなりません。
「あの大手塾の、〇〇先生(教室長)がいるから通う」
この状態を作り出すことが、大手塾で生き残る、いや、圧勝するための唯一の解です。
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面談は「感動」を作る場である
私が担当していた教室では、基本的に私が授業をすることはありませんでした。
その代わり、入塾面談や学習相談はすべて私が担当しました。
ここで私は、保護者の方に「感動」していただくことを狙っていました。
塾の面談で感動? と思われるかもしれません。
しかし、実際に私の面談を受けた方から口コミが広がり、入塾希望者が後を絶たない状態を作ることができました。
その秘訣は、「圧倒的なデータと具体性」です。
例えば、私のいた秋田県。
公立高校入試は本番一発勝負の傾向が強く、非常にシビアです。
ここで私は、曖昧な言葉を一切排除しました。
「頑張れば受かります」なんて言いません。
「秋田高校に合格するには、学校の実力テストで425点が必要です」
と言い切ります。
多くの塾や学校の先生は「だいたい430点くらいあれば…」と濁します。
しかし、私は過去の膨大なデータ(集団指導部門のデータも含む)を詳細に分析し、「ボーダーラインはここだ」という数値を明確に持っていました。
10月以降の実力テストが難化する傾向も含め、「この時期に425点を取れる生徒が何人いるか」という視点で話をする。
この「言い切る強さ」と「根拠のある数字」が、保護者の信頼(=感動)を生むのです。
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答案用紙の「中身」を見る
面談には、必ず直近のテストの答案用紙を持ってきてもらいます。
ここでのポイントは、「点数を見ない」ことです。
見るのは中身です。
例えば、数学が30点で「もう無理です」と嘆く生徒がいたとします。
私は答案の「大問1」を見ます。
秋田県の入試問題は、大問1が計算などの小問集合(1問5点×7問=35点)になっています。
ここでボロボロ落としている生徒にはこう伝えます。
「ラッキーじゃん。この大問1、計算練習さえすれば満点取れるよ。そうすれば今よりプラス25点。一気に60点台に乗るよ。これならできそうじゃない?」
難しい三平方の定理を今から詰め込むのは遠回りです。
でも、計算ミスをなくすのは「遠回りのようでいて、確実な近道」です。
答案用紙から「今、何をすれば最もコスパよく点数が上がるか」を見抜き、提示する。
これを、保護者の前で、あえて「生徒本人」に向かって話します。
親御さんを無視するわけではありませんが、私のターゲットは子供です。
子供が「あ、このおっさんの言うことなら、なんかできそうかも」と顔を上げる。
その様子を見た保護者の方は、「この先生に任せれば、うちの子は変わる」と確信するのです。
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自分という商品を売れ
個人塾は「塾の実績」で勝負できます。
しかし、大手塾の教室長は、会社の看板に隠れていてはいけません。
「あの教室長の分析はすごい」
「あの先生の面談を受けると、子供がやる気になる」
そうやって自分自身の名前を市場に売り込んでいく。
会社から降ってくる理不尽な数字目標をクリアしつつ、現場で理想の教育を実現するためには、この「個の力」で集客するスキルが不可欠です。
今、大手塾で働いている方は、ぜひこの「面談力」と「データ分析力」を磨いてみてください。
パクれるところは全部パクって、地域一番の教室を作ってください。

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