学習塾におけるわいせつ事案を「仕組み」で根絶するために
ここ1ヶ月ほどの間で、学習塾におけるわいせつ事案での逮捕報道が3件ほどありました。場所は静岡で1件、茨城で2件。塾長や講師が女子生徒に対して卑劣な行為を行ったというニュースです。
容疑の認否や個別の事件の詳細はさておき、私たち塾運営者が考えなければならないのは、「なぜそのような疑いを持たれる状況が生まれたのか」、そして「どうすれば自塾からそうした犯罪を物理的に排除できるか」という点です。
わいせつ事案は、個人のモラルだけに頼っていては防げません。経営者・運営者が意図的に「起こさせない仕組み」を作ることが不可欠です。
私は、以下の「3つの視点」を徹底することで、わいせつ事案はほぼ撲滅できると考えています。
1. 風土(空気感)の醸成
まず1つ目は「風土」です。
わいせつ事案が発生する塾は、講師と生徒、あるいはスタッフ間の距離感がルーズであるという共通点があります。これを防ぐためには、言葉遣いから規律を作る必要があります。
• 呼称の統一
生徒を呼ぶ際、ニックネームや呼び捨ては厳禁です。「〇〇!」や「〇〇ちゃん」ではなく、必ず「〇〇くん」「〇〇さん」と呼ぶこと。これはスタッフ間でも同様です。たとえ親しい間柄であっても、職場では「〇〇先生」「〇〇さん」と呼び合います。
• 挨拶の徹底
「おう」「じゃあな」といったラフな挨拶は禁止です。「こんにちは」「さようなら」と、正しい挨拶を徹底させます。
「堅苦しい」と思われるかもしれませんが、この「一線」を引くことが重要です。ラフな関係性は、やがてボディタッチや不適切な発言といった「隙」を生み出し、それが重大な事案へとエスカレートしていくのです。
2. 箱(環境)の設計
2つ目は、物理的な「箱(建物・設備)」の工夫です。
• カーブミラーの設置
教室の死角をなくすために、カーブミラーを設置します。重要なのは「見ること」以上に、「見ているぞ」とアピールすることです。「防犯対策実施中」といったステッカーと共に、あえて目立つように設置することで、不埒な考えを持つ人間に心理的な圧力をかけます。
• 「音」の筒抜け化
これから内装工事ができる場合にお勧めしたいのが、壁の上部を天井まで塞がず、開けておくことです。視覚的な個室感は保ちつつ、音は教室中に筒抜けになるようにします。
「内緒話ができない空間」を作ることで、密室での不適切な会話や行為を物理的に防ぎます。
3. 人員配置
3つ目は「人員配置」です。ここが最も重要かもしれません。
• 密室・ワンオペを作らない
塾内に「講師1人・生徒1人」という状況を絶対に作らないことです。常に複数の大人の目がある状態を維持します。
• 女性スタッフの配置
私の経験上、女性が責任者を務める教室でわいせつ事案が起きた例は皆無でした。可能であれば、常に男女を含む複数のスタッフがいる体制が理想です。
もし、個人塾などでどうしても1人にならざるを得ない場合は、「自習室を開放して常に誰かがいる状態にする」「保護者の見学・待機を歓迎する」など、密室性を排除する工夫が必要です。
「ハインリッヒの法則」を忘れない
労働災害における「ハインリッヒの法則」をご存知でしょうか。1件の重大事故の背景には29件の軽微な事故があり、さらにその背後には300件のヒヤリ・ハット(危ない状況)があるというものです。
今回報道されたわいせつ事件も、突然起きたわけではないはずです。その裏には、肩に手を置く、不快な発言をする、といった「軽微な事案」や「ヒヤリとする瞬間」が数百回積み重なっていたはずなのです。
私たち経営者は、この「300件のヒヤリ」の段階で芽を摘まなければなりません。
生徒を大切に思うなら、性善説に立つのではなく、最悪の事態を想定した「仕組み」で生徒を守る。それが、プロとしての責任ある教室運営だと私は考えています。

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