なぜ、あの「サラダボール専門店」は2ヶ月で潰れたのか?

先日、私の住む秋田市の人通りが比較的多い官庁街に、「サラダボール専門店」がオープンしました。夏前のことで、「ああ、ついに秋田にもこういう意識の高い店ができたか」と密かに注目していました。

ヘルシーで、見た目も鮮やか。ランチとしては1食1000円近くと安くはありませんが、健康志向。しかし、その期待も虚しく、そのお店はわずか2ヶ月ほどで静かにシャッターを下ろしてしまいました。

開店から閉店までの、驚くべきスピード。

なぜ、この店はこれほど早く撤退することになったのでしょうか。立地が特別悪かったわけでもありません。私は、この事例にビジネスの、そして我々が携わる「塾運営」の非常に重要な本質が隠されていると感じています。

失敗の分析:「良い商品」が「売れる商品」とは限らない

あの店がなぜ失敗したのか。部外者である私が断定することはできませんが、いくつかの仮説は立てられます。

秋田県は、残念ながら日本有数の「大酒飲飲み」であり、「塩分摂取量多い」土地柄です。健康診断の結果も芳しくありません。

1. 地域ニーズとの致命的なミスマッチ

そんな地域で、ランチに1000円の「ヘルシーなサラダ」を食べるという文化が、どれほど根付いていたでしょうか。もちろん、健康を気にする女性客などをメインターゲットに据えていたはずです。しかし、そもそも多くの人は、外食に「健康」だけを求めているわけではありません。「ラーメンを食べたい」「がっつり定食を食べたい」という強い欲求に対し、「健康的なサラダボール」という選択肢が勝つのは、容易ではなかったはずです。

都心であれば、多様なニーズの受け皿として成立したかもしれません。しかし、秋田という市場において、1000円という価格に見合う「価値」として認識されるには、ハードルが高すぎたのです。

2. 最大の敗因:「顧客への教育」の完全な欠如

私が考える最大の敗因は、これに尽きます。

「なぜ、ランチに1000円を払って、サラダボールを食べる『意義』があるのか」

この問いに対する店側の「答え」と、それを顧客に「教育」するプロセスが、完全に抜け落ちていたのではないでしょうか。

開店前のInstagramを覗いてみましたが、そこには美味しそうな商品の写真が並ぶだけ。「シュリンプなんちゃらです」とメニューが紹介されていても、それを見て「よし、食べに行こう!」と決意する顧客がどれだけいたか。

もし、私があの店のコンサルタントなら、開店2ヶ月前から、まったく違う情報発信を提案したでしょう。

• メイキング: サラダボールが出来上がるまでの調理の裏側。

• 素材へのこだわり: 調理前の、契約農家から届いた水々しい野菜の姿。

• 科学的根拠: 「なぜこの組み合わせなのか」「この一皿でどれだけの栄養素が摂れ、午後のパフォーマンスがどう変わるか」といった数値や根拠。

単に「ヘルシーでおしゃれ」というイメージだけでは、人の習慣は変えられません。既存の習慣(ラーメンや定食)を乗り越えるだけの「強い理由」を、店側が粘り強く提供し、消費者のマインドを変えていく「教育」が不可欠だったのです。

あなたの塾は「サラダボール専門店」になっていないか?

この話は、そのまま「塾運営」に置き換えることができます。

熱意があり、素晴らしい指導理念を持っていても、なぜか生徒が集まらない。すぐに生徒が辞めてしまう。そうした「潰れる塾」の多くは、このサラダボール専門店と同じ過ちを犯しています。

事例:鎌倉と秋田では「大学受験」の価値観が違う

以前、神奈川県の鎌倉高校の進学実績データを見て驚いたことがあります。生徒の約7割が私立大学に進学しているのです。早稲田や慶応、MARCHに喜んで進学していく。

一方、私の地元・秋田では、いまだに「国公立大学こそが上」という強固な信仰があります。高校の先生も保護者も、「大学受験=国公立」であり、私立大学は「滑り止め」という認識が根強い。

もし、この鎌倉高校の近くで「国立大学専門塾」を開いたらどうなるでしょうか?

「うちは国立しか目指しません!」

そう息巻いたところで、生徒は一人も来ないでしょう。地域のニーズと、塾が提供したいサービスが、完全にズレているからです。

逆に、もし本気で鎌倉で国立専門塾をやるのであれば、それこそ「なぜ、私立ではなく国立大学に行く『意義』があるのか」を、生徒や保護者にゼロから「教育」し、彼らの価値観を変えるところから始めなければなりません。それは、サラダボールの価値を秋田で説くのと同じくらい、困難な道のりです。

「教育」とは「塾の必要性」を訴え続けること

流行る塾は、この「教育」が非常に巧みです。

それは、「どんな学年も指導します!」といった安請け合い とは真逆の行為です。むしろ、自塾の「専門性」 を明確に打ち出し、  

「なぜ、小学生のうちから学習習慣をつける必要があるのか」

「なぜ、他塾の個別指導ではなく、ウチでなければ成績が上がらないのか」

「なぜ、地域トップ校を目指すことが、あなたの将来にとって重要なのか」

こうした問いに対する「答え」を、SNSやチラシ配り(ハンディング)、そして入塾面談の場で、教室長の言葉 として粘り強く発信し続けています。  

それは広告宣伝であると同時に、地域の保護者や生徒に対する「教育」活動そのものです。この「教育」を通じて、塾の理念や価値観が地域に浸透し、共感した「質の高い顧客」 が集まってくる。これが、「流行る塾」が口コミを生み出すメカニズムです。  

結論:価値を「教育」し、市場を創り出せ

サラダボール専門店の早期撤退は、「良い商品(サービス)」が、そのまま「売れる商品」になるわけではないという、ビジネスの厳しい現実を私たちに突きつけました。

「売れる」ためには、まず地域のニーズを的確に把握すること。そして、もしニーズがなければ、自らの商品(サービス)の「必要性」や「意義」を、ターゲット層に粘り強く「教育」し、市場そのものを創り出すくらいの気概が必要です。

塾運営の本質は、言うまでもなく「通った生徒の成績が必ず上がり、全員が志望校に合格する塾」 であることです。  

しかし、その素晴らしい指導を提供する以前に、あなたの塾の「価値」と「意義」が、地域社会に正しく伝わっていなければ、スタートラインにすら立てません。

あなたの塾は、秋田の地で消えていった「サラダボール専門店」になっていませんか? あなたは、自塾の「価値」を、地域に正しく「教育」できているでしょうか。今一度、自問自答してみる必要があります。

コメント

タイトルとURLをコピーしました